「母語・継承語・バイリンガル教育研究会」を立ち上げる会・議事録


日 時:2003年8月8日(金)6:30~8:30 p.m.
場 所:桜美林大学大学院新宿キャンパス
出席者:42名
【議事】 
第一部 6:30~6:55
I-1. 設立の趣旨、会の名称、会の目的、対象領域について(中島)

1. 設立趣旨
2003年5月25日の日本語教育学会春季大会でのパネルセッション「もう一つの年少者日本語教育─継承語教育の課題─」のパネリストの4名(中島和子・佐々木倫子・津田和男・湯川笑子)が発起人となって立ち上げた会で、バイリンガル・トライリンガル教育の視点から、継承語教育・母語教育の研究に学際的に取り組む。先行研究や文献が不足している分野であり、研究及び実践の両面において当分野の発展に貢献したい。
2. 名称
参加者の賛同を得て、会の名称を「母語・継承語・バイリンガル教育研究会」、略称「MHB
(Mother-tongue, Heritage language, Bilingual Education)研究会」とする。
3. 目的
次の4つの目的がある。
1) 対象領域の研究活動の活性化
2) 対象領域の実践活動の質の向上
3) 対象領域の情報交換・リソース収集
4) 対象領域の発展のための広報活動─関連組織との連携作り。
4. 対象領域
バイリンガル教育(多言語教育を含む)を必要とする年少者、特にマイノリティー言語を母語とする児童生徒の言語教育の研究を対象とする。当面具体的には以下の4つの領域を含み、各領域を担当する発起人を( )内に示した。
1) 先住、定住、新来児童生徒の母語・継承語教育(湯川、中島)
2) 日本人・日系児童生徒の継承語としての日本語教育 (津田、佐々木)
3) 聾児のためのバイリンガル教育─母語を手話とする人たちのため日本語のリテラシ
  ー教育(湯川、佐々木)
4) 海外・帰国子女、国際学校子女、その他各種イマージョン教育(中島、津田)
I-2. 組織と運営について(佐々木)
5. 組織と運営
1) 当面(2004年夏まで)事務局を桜美林大学佐々木倫子研究室におく。
2) 事務局は会員登録に基づいて会員リストを作成。
3) 当面(2004年夏まで)会費徴集はしない。
4) 発起人が協同責任で会の運営に当たる。担当領域を明確にし、責任分担も可能。
 (必要があれば、発起人互選で会の代表者を選出する。)
5) 会員がグループまたは個人で(実費をとって)各種研究会を随時各地で開催する。
  この場合前もって領域担当者の承認を得ること。
6) 将来的には会員の中から世話人を互選し、発起人の役割は世話人に移行させる。
7)研究誌、情報交換誌の刊行を行う。当面は研究会発表原稿をウエッブ上で会員に
  配布する。8月9日配布の『プレ創刊号』(2003年5月の日本語教育学会でのパ
  ネルセッション時の発起人4名の論文を収録)をウエッブ上に載せる。会員の発表
は査読を経た上でウエッブ上のE-ジャーナルに掲載。著作権は著者個人に帰する。
第二部 6:55~7:55
II-1 4つの領域からの問題提起が担当の発起人よりなされた。
1. 領域 (1) 先住、定住、新来児童生徒の母語・継承語教育
在日コリアンのバイリンガル教育を例にとって先住マイノリティ・定住外国人のバイリンガル教育に関する必要な研究を紹介。50年の蓄積された教授法のノウハウも教師教育に役立つのではないかと指摘。
以下は、進めるべき研究項目を提案する: 
 ○イマージョンとして育てうるL2朝鮮語と母語である日本語の言語能力を小学校、中学校、高校卒業時点で描写する研究、
 ○バイリンガルたちの言語生活、言語使い分けの様子、コード切り替えのルール、個人差やグループ間のゆらぎ(variability)の幅を明らかにするための研究、
 ○朝鮮学校が戦後半世紀にわたって蓄積してきたイマージョン教育の教授法(pedagogy)の記述、
 ○これまでのイマージョン教育成果の一般的傾向との比較対照、
 ○言語の組み合わせの差や、日本の社会的な要因等がフランス語イマージョンとのどんな違いを生んでいるか、日本でのイマージョンとの比較対照、日本の社会的な要因等の影響、
 ○新しい世代にイマージョン教育を継承していくために必要な教師教育の中身を知るための研究、
 ○朝鮮学校でのトータルイマージョン、民団系の学校で教科として学ぶ、そして公立学校の民族学級という風に言語教育として重点の置き方がちがう継承語教育のタイプがそれぞれどの程度の言語教育力を発揮できているのか、その差を明確にする研究、など。(湯川)
新来児童生徒の母語教育は家庭をベースにしており、親を説得するためのデータが必要である。母語をふまえた上での日本語教育に関してはデータが不十分。しっかりした調査が協力してなされるべき。(中島)
2. 領域 (2) 日本人・日系児童生徒の継承語としての日本語教育
集団移住の結果生まれた日系社会で人びとがどのような言語シフトを経ていったかを追うことは、現在日本にいる外国人児童生徒の言語の問題にも示唆を与える。また、日系社会の日本語環境の実態把握と、環境を生かした教育的介入が継承語教育には重要である。現在、調査方法のしっかりした言語調査が進行中であるが、さらに調査箇所を広げる必要があり、調査に関心を持つ人が出てくることが望ましい。教育的介入を考えたとき、学習リソース情報の収集と流通も重要で、関心のある人間が連携を持ちつつ個人を超えた規模で推進していくことが望ましい。(佐々木)
ニューヨークの国連国際学校で継承語、JFLとして日本語教育実践を行なう中で考えてきたことだが、発達や理解という「教育としての日本語教育」の問題を中心にして考えていかなくてはいけないと感じている。実践者として子供自身に焦点をおいて、アイデンティティ、動機付け、参加型グループワークなど様々な問題を明らかにしていきたい。また、グローバリズムの中で個人型移住が起きているが、ここで生じる継承語の問題、教師のトレーニングの問題なども明らかにしたい。(津田)
3. 領域 (3) 聾児のためのバイリンガル教育
手話を使う耳が聞こえない子供への読み書きの日本語教育をバイリンガル教育と捉えて、聾児を対象とする言語教育を考えたい。手話、小学校教育、日本語教育、イリンガル教育の4つの分野の学際的、実践的研究が望ましい。
具体的に研究、活動の案として次のものが提案された:
 ○ 日本手話を母語としてもっているがために、それらしい書記日本語の中間言語エラーを示す子どもの言語発達の過程を知り、手当(intervention)の方法を知るための研究、○日本語対応手話などの手話、もしくは読話による音声日本語を母語(に似たもの)として持っているがために、インプットの不十分な言語にみられがちな中間言語エラーを示す子どもの言語発達の過程を知り、手当(intervention)の方法を知るための研究、
 ○手話と書記日本語という組み合わせでバイリンガルが育っていく場合の言語成長プロセスの青写真、成長プロセスを明らかにする研究、
 ○外国語として年少者に日本語教育をする中で蓄積されてきた日本語教育教授法や教材、日本語習得プロセスの知見をろう教育関係者にわかりやすく、入手しやすい形でリソースとしてまとめ、講習会をし、公開サービスをする活動、
 ○手話と書記日本語、特に、義務教育で取り扱うような日本語との比較対照辞典やそれを提示してくれるようなコンピュータプログラムの作成、もしくは、そのための言語コンサルタントのような活動、手話を知っている人、聾児にバイリンガル教育をしようとしている現場の先生と日本語教育、バイリンガル教育を知っている人を一カ所に集めてチームとして教育ソフト(やデジタル媒体以外の教材も)を作るような研究と活動、など。
聾児に対する日本語教育は、母語の抑圧・放置という点から、外国人児童・生徒への日本語教育と重なる点も多い。現在、学会などでの研究発表を小グループで企画中であるが、広く社会の理解を喚起するだけでなく、教育実践の充実を促進する方向の研究も必要である。(佐々木・湯川)
4. 領域 (4) 海外・帰国子女、国際学校子女、その他各種イマージョン教育
海外子女教育に関しては、当議事録II-2(2)を参照のこと。(津田)
様々なイマージョン教育の研究者が一堂に会する場がなかったので、共に話し合う場を作りたい、また教師研修が望まれる。(中島)
II-2 以上の4つの問題提起に加えて、関連組織からの問題提起が行なわれた。
(1) 米国ATJ継承語特別研究会(ダグラス昌子)
従来のアメリカでのバイリンガル教育は将来的に英語を第一言語とするための過渡的教育であったが、1999年に継承語は国の言語資産であるとの観点で母語保持に目が向けられるようになった。また最近大学での語学教育での目標が高く設定されるようになり、継承語として既にある言語能力を持っている人材に対する教育が注目されている。日本語に関しては1999年にATJ(米国日本語教師会)で継承語教育に関するパネルセッションが中島先生を中心にして持たれ、同年、井川氏により継承日本語教育会議が開かれた。その後研究グループが作られ、学会発表や、Web上での発表要旨掲載、メールリスト設立など活動を行なっている。
(2) 最近の米国を中心とする、継承日本語教育に関する情報と日本の国際教育の情報の紹介(津田)
日本での日本語教育、英語教育、国際教育の分野を重ね合わせたレックス・プログラム(REX Program)のNPOの立ち上げ。日本の地方都市と海外の都市が日本語教育を通して結びついたレックス・プロジェクトで日本の英語教員が海外で教育実践と研修を受けているが、数(20名程度)が限られている。日本での英語教育、国際教育の力になるものとして、プロジェクトの推進が望まれる。ニューヨークを中心とした新しい継承語教育が課題になっていて2003年の夏に第3回米国NECTJ(北東部日本語教師会)日本語継承語教育大会が開かれる。最後に4つの研究領域を目的(挑戦)、意味、方法、問題の視点から提示した。
挑戦:内容重視の教育や生徒中心のグループワークや徒弟制度などと学習の方法開発,ネットワークの現代化と継承語教育(挑戦),時代に応える研究会に関わる意味
意味:対象領域の問題としても大変議論の価値がある.なぜ今継承語教育なのか。
方法:研究者からの立場でのこの分野と学的な課題と学際的な課題
   実践者からの学問的な問題(方法)思想と表現思想の乖離が問題にする課題
問題:
 理念からカリキュラムへのプログラム(国内教育とインターナショナルな背景を持つ継承語教育との関係),
 教員集団の研修課題や教室が持つ環境整備
 学習者のアイデンティティや動機問題など学習者の心理
 親子や継承語社会の様々な課題
 スペシャルニードとしての継承語
 年少者の言語環境の変化;海外、帰国子女、国際学級、イマ-ジョン、日系人。
第三部 8:00~8:25
次いで、今後の活動計画について領域別話し合いを二つのグループに分かれて行なった。
1) 在日の外国人児童生徒への言語教育 (中島)
2) その他(湯川、佐々木、津田)
各グループで参加者各自の興味・関心や問題意識、この会への期待などについて話し合った。1)のグループでは第2回の研究会のテーマを「語彙テスト、語彙調査について」にすることにした。
全体のまとめ 8:25~8:30
※今後はメールで連絡を取り合うことになった。
(記録:事務局 今井美登里)