北海道札幌聾学校における日本手話を用いた教育の継続についての声明

MHB学会長と理事一同は、2022年3月16日付けの「北海道札幌聾学校における 日本手話を用いた教育存続の危機的状況について」という関係者各位を宛名とした公開の文書を受けとりました。この件に関して以下の声明を発表いたしました。

なお、この声明に賛同される方は <https://chng.it/wSj6RTrDJ2> からオンライン署名(および拡散)をすることで運動を支援することができます。また、本件に関わる関連情報をまとめたHPは以下にあります。
https://sites.google.com/view/satsurojsl/

***********声明文**********

北海道札幌聾学校における日本手話を用いた教育の継続についての声明

 私たち「母語・継承語・バイリンガル教育学会」は、日本在住の幼児・児童・生徒・学生・成人のバイリンガル教育(母語教育や3言語以上の多言語教育を含む)および海外の日本人や日本語に関わるバイリンガル教育の向上を目的として活動する学術団体です。かねてより札幌聾学校では、幼児・児童・生徒の聞こえの程度や要望に応じて日本手話を用いるクラスと聴覚口話で教えるクラスを設けて実施してこられました。しかし、教員の退職に関わって、日本手話を用いるクラスが子どもや親の意に反して縮小される方向性が出ていると聞いています。縮小が起きないように、管轄教育委員会と学校は配慮すべきであるとの意見をここに表明いたします。

 手話が手まねと呼ばれた時代を脱して、社会的、学術的に高度な話題でも使用可能な1つの言語であるということが世に知られるようになってすでに半世紀が経過しています。その証拠に欧州の言語教育の指針とされている「欧州言語共通参照枠CEFR-CV(2020)」にも手話の言語レベルの記述文が詳細に掲載され、バイリンガル教育分野では、手話を媒介として、手話と居住地で使用されている音声言語の読み書きの両方の使い手に育てるための教育が1章を占める概論書が増えています。

 ろう者にとって、もっとも容易で全てが理解・表現できる言語はろう者の手話です。そのような、最もわかりやすい日本手話を媒介言語として学校での授業が受けられることは、日本に生まれ日本語を母語とする6歳児が日本語で授業を受ける権利があるのと同様に当然保障すべき学習上の権利です。

 すでに2005年に、日本弁護士会は人権救済申し立てを受けて実施した調査結果の中で、ろう教育における手話の活用を求め、手話で教育できる教員の養成が不可欠であるとしています。全日本ろうあ連盟も、日本手話推進者とやや路線は異なるとは言え、2003年に同じ人権救済申し立てに関する見解としてろうの教員の採用や手話による指導カリキュラムの開発の必要性を主張しています。

 手話が高度な概念を表現できる言語の1つであることを認めている世界常識を受け止め、手話が学びの媒介言語として最適な第1言語である子どもたちに手話による教育を確保し、彼(女)らの学習権を確保するべきだと考えます。


母語・継承語・バイリンガル教育学会会長 湯川笑子(立命館大学)および理事一同

2022年(令和4年)3月23日